標準問題精講で名古屋大学の理系数学は太刀打ちできるか?
「標準問題精講シリーズ」を使ってこれから数学の学習を進めていこうと思ってはいるものの、名古屋大学入試数学に太刀打ちできるだろうかと迷っている人もいると思います。
今回は、「標準問題精講シリーズ」を使って名古屋大学の理系数学にどこまで太刀打ちできるのかを指摘しつつ、受験学年においてはどのような対策を進めていくかまでの記事を書いていきます。
また、これから名古屋大に向けて勉強しようという高1,2生はこちらの記事も参照ください。
【2024年版】名古屋大の理系数学の傾向と対策 攻略のための勉強法
【この記事を読むべき人】
- 標準問題精講を使おうか迷っている高1,2生
- 基礎問題精講をやって標準問題精講に移ろうか悩んでいる受験生
- 二次試験対策として標準問題精講が使えるかを知りたい受験生
【自己紹介】
I・T先生
「理系のための大学受験塾SoRa」の数学【カラ破り】コース主任。京都大学理学研究科数学・数理解析専攻修士課程修了。現在は、5つの大学で数学の授業を受け持ち、大学生に数学を教える傍ら、SoRaの難関大志望者の指導にもあたっている。
標準問題精講”だけ”では名古屋大学の理系数学は太刀打ちできない
結論として、「標準問題精講シリーズ」だけでは名古屋大学の志望学科の合格者平均点に到達するのは厳しいです。
標準問題精講シリーズがダメな参考書という訳ではなく、使い方によっては有効です。しかし、標準問題精講の内容を完璧にしても名古屋大学の理系数学とは少し乖離があります。それについて以下に詳しく解説をしていきます。
標準問題精講の概要
まずは標準問題精講の概要について説明します。もうすでに参考書の内容を知っている人は飛ばしてもらって構いません。
「標準問題精講シリーズ」は数ⅠA, ⅡB, ⅢCの3冊から構成され、典型問題の解法を学ぶことができる参考書です。
旺文社から出版されていて、それぞれ別の著者による参考書です。入試問題から選ばれた「標問」と呼ばれる例題が以下のように多数収録されています。
数学ⅠA | 124題 |
数学ⅡB | 183題 |
数学ⅢC | 134題 |
各「標問」の直後には、「精講」と名付けられた入試問題の解法を整理した内容が1ページ程度で解説され、続いて模範となる解答が示されます。その後に関連した「演習問題」が1, 2題取り上げれられています。
青チャートvs標準問題精講
よく比較されがちな青チャートと比べてみると、標準問題精講は用語の説明を一からしているわけではなく、すでに学校で学習した人が使うことを想定しています。そのためか、「基礎問題精講シリーズ」の後に手に取る人も多いです。「精講」においては、用語の説明は少しはあるものの、主に入試問題を解くための知識と解法のプロセスが解説されています。
標準問題精講では問題数が青チャートの約3分の1~半分程度に問題数を絞られています。絞り方も、入試問題から選ばれた典型問題にフォーカスしており、青チャートでは、教科書の応用例題や章末問題レベルの「基本例題」から入試問題のやや難の問題を集めた「総合演習」まで取り上げられていることと比べると、明確な編集意図があるようです。
他にも、標準問題精講は「研究」と呼ばれる「標問」の内容を掘り下げた項目があります。たとえば、数ⅢCの内容を見てみると、部分分数分解、凸関数、単振動、2次曲線の分類、離心率について、漸近線についてなどが解説され、入試問題を1つ高い視点から見ることができます。
標準問題精講を使う際の注意事項
典型問題の解法を学べる標準問題精講ですが、注意点もあります。まず、難易度が高い典型問題が載っているので、基礎が固まっていない状態でやると苦戦する可能性が高いです。そのため、基礎問題精講の続きとして想定はされていますが、基礎問題精講の内容が完璧になっていることが前提条件となります。
また、数ⅠA, ⅡB, ⅢCの3冊で著者が違うのもあり、難易度に若干の違いがあります。数ⅠAと比べると、数ⅡBや数ⅢCは歯ごたえがある問題が多いと感じるはずです。特に数ⅡBは他の2冊と比べても問題数が多いので、時間がかかる可能性があります。
以上のようにレベルが高い典型問題を学ぶには最適な問題集ですが、それゆえに使う人を選ぶ問題集なので注意が必要です。
名古屋大学入試数学との比較
最初に、「標準問題精講シリーズ」だけでは名古屋大学の志望学科の合格者平均点に到達するのは厳しいと書きました。
というのも、名古屋大学の理系数学においては、教科書の例題に基礎をおきつつも、それらから発展・融合したような「考察力」を要する出題がなされるからです。この「考察力」を要する問題への対応力を標準問題精講だけで養成することは難しいのです。
ここで、「考察力」とは各小問どうしの繋がりを発見したり、数値実験や問題の言い換えなどをして解法の糸口を発見したりする力のことを指します。
名古屋大学の理系数学は難易度が標準のものと難問に分類される計4つの大問から構成されます。教科書の例題の問い方と文言や視点を変えたり、分野融合問題にするなどして、解答を進める上で考察を経なければ前に進まないような問題構成となっています。
たとえば、次の24年の大問2を見てみましょう。
数ⅡBと数Ⅲにまたがる出題で因数定理や共通解の知識も問われています。小問(2)を解こうとしたところで、単に因数定理を使って解く問題ではないことに気付くはずです。αの極形式を求めてみるとか、小問(1)との繋がりはないかなど想像して解法を練り上げることにより、ようやく答案が作成できます。小問(3)も同じく前問までとの繋がりを考察することにより答案が作成できます。
「標準問題精講」においては、特に数ⅠA, ⅡBについては入試問題の大問の小問1つを切り取ってきたものを「標問」として取り上げています。そのため、名古屋大学が試そうとしている「考察力」を養う訓練がどうしても不足することになります。
次に、21年の大問4を取り上げてみましょう。
近年は、大問1が比較的易しい出題で大問4に難問が配置されていますが、上の大問4はやや難から難問に属する問題です。「標準問題精講」では、ガウス記号は数ⅠAで取り上げられ、数列の漸化式は数ⅡBで取り上げられています。
しかし、いざ下の大問4を解いてみようとすると、ガウス記号の基本的な性質は使うものの標準問題精講で取り上げられている漸化式の知識は役に立ちません。各小問どうしの繋がりを発見して、考察を繰り返していく大問であることに気付くと思います。
このように、名大の入試数学においては、知識を問うというより、主として「考察力」を問う出題をすると言えます。
「標準問題精講シリーズ」では、先ほど言及しました難易度に傾斜がある事情から、特に、数ⅠA、ⅡBから出題の大問への対策を別の問題集で補う必要があると思います。
ただ、数学ⅢCに限っては本格的な入試問題を取り扱っているため、「標問」「演習問題」ともにこなせていれば、合格者平均点は狙えるでしょう。
まとめると、「標準問題精講シリーズ」だけでは名古屋大学の志望学科の合格者平均点に到達するのは厳しいです。ただし、次のような目的で使う場合には、名古屋大学理系数学への対策となります。
おススメの使い方
- 高1・2生で基礎問題精講を完璧にして入試の定石問題を学ぶ1冊として使う
- 高3生・高卒生で知識・手法に穴の空いている単元だけを対策する
- 数学に対して知識・手法をじっくりと学ぶ
逆におススメできない使い方としては、
おススメできない使い方
- 時間がない中で全部の問題に挑もうとする
- 基礎が固まっていない状態で使用する
- 二次試験対策の仕上げとして使用する
と言えます。
ここからは補足説明となりますが、標準問題精講でもし学習を進めた場合、名古屋大学の理系数学に向けてどのように対策をすべきかをお伝えしていきます。主に受験生を対象とした内容となっています。
標準問題精講をこなした後にどんな演習を進めていくべきか?
すぐに、「考察力」を要するような大問が解けるようになるための準備に取り掛かりたくなる気持ちは分かるのですが、「小問どうしの繋がりの分析」をした上での発見の元となるのは「基本の理解」です。
以下、「基本の理解」から始めて、どんな手順で「考察力」を要求するような大問を、部分的にでも解けるようになるかについて書いていきます。
手順その1:「基本の理解」をもう一度確認する
「基本の理解」とは、ここでは教科書レベルの例題や定理・用語の理解を指します。
受験学年の人でも、毎年大問1は比較的易しい出題になっていることを考えると、もう一度「基本の理解」の確認に時間を割きましょう。これまでの模試の結果を見て、知識に穴が空いている箇所を埋めるのでも構いません。
また、教科書の例題だけでなく用語・定理の理解までススめるのには理由があります。名大の入試数学においては、「連続関数」「中間値の定理」「平均値の定理」と言った数Ⅲ微積分の基礎の理解を要する出題がなされてきたためです。下の22年の大問4が参考になります。
具体的な関数ではなく、抽象的な関数を扱った問題であって、小問(1)ですら完答できない受験生が居たであろうと推測します。小問(2)においては存在を示すために中間値の定理を使いますが、問題文には「中間値の定理を使って示せ」とは書かれていません。
自分で方針まで立てないといけないので、数Ⅲ微積分の用語の理解もしっかりとしていないと攻略できないような出題です。標準問題精講数ⅢCには、中間値の定理の解説はないので、教科書に戻って確認することになります。
手順その2: 名古屋大学数学に頻出の問題の重点的対策
確率漸化式や複素数平面そして数学Ⅲ積分法は名古屋大学では頻出の単元ですので、重点的な対策をしておきたいです。こちらの対策はまずは類題を通じて知識・手法を身に付けることになります。
実は標準問題精講には、「分野別 標準問題精講」というシリーズもあり「場合の数・確率」「二次曲線・複素数平面」など計6冊あり、標準問題精講数ⅠA, ⅡB, ⅢCでは割愛した大問を取り上げて詳しく解説しています。
入試問題の大問をそのまま取り上げており、「小問どうしの繋がりの分析」のトレーニングにもなるような演習価値の高いものも含まれています。
「場合の数・確率」には確率漸化式、「二次曲線・複素数平面」には複素数の幾何的扱いという名古屋大学対策にぴったりの章が設けられています。
数学 場合の数・確率 分野別 標準問題精講 改訂版
数学 二次曲線・複素数平面 分野別 標準問題精講 新装版
数学Ⅲ積分法に限っては、分野別シリーズにはありませんので、たとえば、青チャート数学Ⅲ積分法の「重要例題」のみ解いてみるとか、別の参考書・問題集を利用することも考えてみましょう。別の参考書・問題集を利用すると、中には標準問題精講数ⅢCが理解できていなかったと気づく人も出てくるのではないでしょうか。
手順その3:名大理系数学と似た形式の大問をまず50題解いてみる
「考察力」を要する大問の攻略のための知識・手法が身についてきたら、演習の段階に入る時期です。まずは「考察力」が求められる大問として、名大理系数学と似た形式の大問を50題ほど解いてみましょう。
名古屋大学理系数学の出題傾向に一番近いのは、九州大学・東北大学の前期試験過去5カ年だと私は思います。
九州大学(理系-前期日程) (2025年版大学赤本シリーズ)
東北大学(理系) (2025年版大学赤本シリーズ)
解いていく過程で、「小問どうしのつながりを分析する」とか「数値実験や問題の言い換えなどをして解法の糸口を発見する」といった文言が何を意味しているのかが分かってくるはずです。
これだけでも大問数で言うと50題を超えます。「手順その2」で、知識・手法を身に付けたと思っていても、たとえば数学Ⅲ積分法の大問が半分しか解けなかったというのはよくあることです。
しかし、数学科目で志望学部の合格者平均点を目標にするのであれば、やや難から難に属する大問では部分点でいいのです。
手順その4:何が足りないか分析してみよう
過去問演習をしてみると、重点的な対策をしたはずの単元なのにそれほど点数が出なかったという人は、何が足りないか分析してみましょう。この分析という作業はやったことがない人にとっては難しいことかもしれません。
たとえば、入試問題レベルでの典型的な手法・知識が抜けていたのか、あるいは、数値実験をしたが表にまとめるくらいのことをしなかった為に規則性が見いだせなかったのか。他にも図を雑に描きすぎて、直交する2つの辺に気付かなかったのか。
よくよく考えると、これこそが「考察」そのものなのに、これまでやったりやらなかったりと気まぐれで解いてきたことに気付くのではないでしょうか。「考察力」が求められる大問を必ず解ける方法というのはないのでしょうが、多くの受験生が気付くようなところを気付かないというのは致命傷になりかねません。
まとめ
標準問題精講を3冊こなしたとしても名古屋大学理系数学の対策は充分とは言えません。しかし、入試における定石問題を学ぶことを目的にして使うには良いと思います。
- 高1・2生で基礎問題精講を完璧にして入試の定石問題を学ぶ1冊として使う
- 高3生・高卒生で知識・手法に穴の空いている単元だけを対策する
- 数学に対して知識・手法をじっくりと学ぶ
逆に下記のような使い方はおすすめできません。
- 時間がない中で全部の問題に挑もうとする
- 基礎が固まっていない状態で使用する
- 二次試験対策の仕上げとして使用する
「考察力」を問われる大問は、教科書や教科書傍用問題集などでは扱われることはなく、名古屋大学の過去問を解いてはじめて出会うものです。受験学年になると、共通テスト対策も当然同時進行で進めますので、じっくり知識・手法を身に付ける時間は高2生までとなるでしょう。
標準問題精講を通してどういった力をつけたいのか、現状使いこなせる状況にあるのかを判断して、名古屋大学の合格を掴み取りましょう。
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